健二はコンビニから出ると傘を差し校門の方へ向かった。相変わらず大学前はおろか通りにも人影は見えない。
ため息をつく。
穂先を金色に輝かせた稲穂がその雨を受け輝きを鈍らせている。
にゃーー
白猫がどこからともなく足元にやってきた。雨に打たれていたのだろう毛がしっとりと湿っている。
「おっ、やっぱり居たんだな」
健二はしゃがみこみ白猫を撫でる。撫でられるのが嬉しいのだろうにゃーー、にゃーーと気持ちよさそうに声を上げる、
「ちょっと待ってろ今暖かいミルクあげるからな」
健二は袋から先ほど暖めてもらったミルクを取り出しカバンに入っている紙のお皿にミルクを注いだ。
白猫はそれをおいしそうになめ始めた。
「今日は、二人っきりだな」
健二はあの少女を思い出していた。
もしここで会えたら奇跡的だと思った。
もしそうであれば思いが通じるかもと思った。
しかし彼女は居なかった。そして彼女と共にいつも現れるこいつが居た。
それが何を意味するのか。
雨粒が傘を超え体の中まで降り注ぐ。
「健二君?」
突然背後で声がする。それは燐とした明るい声だ。
健二は後ろを振り向く。
降っていた雨が止み光が差し込んだ気がした。
しかし、それは幻であった。
そこには彼女ではなく別の女性が居た。
確か。
「陽子……さん?」
「びっくりした。まさか、健二君が居るなんて思わなかった」
陽子は雨の音を切り裂くほど元気がいい。
「ああ、俺も。……塾に行ってたの?」
健二はがっかりした気持ちを表にださないよう精一杯繕った。
「えっ! 今日塾あったっけ」
「いや、無いと思うけど」
「なんだぁ、驚かせないでよ。一瞬、肉団子に怒られるかと思っちゃった」
「肉団子? ああ秋山のことね」
「あっ、しまった。ついつい普段の呼び方がでちゃった。これはここだけの秘密にしといて」
子猫のような仕草で笑う。
それが一瞬あの少女の笑顔に見えた。
「ああ、どうせ俺も肉団子って呼んでるからお互い様だ」
心の動揺を押し殺し声を絞りだした。
雨は木の葉に落ち滑らかに滑り落ち歩道の水面を揺らす。
「それにしても……健二君こそ、なんでこんなところに居るの? 家、かなり遠いよね」
……。
「この猫が心配になってね」
白猫は健二の足元でミルクをおいしそうにすすっている。お腹がすいていたのだろうもうミルクはほとんどない。
「それでここまで来たの?」
「まあな」
「ふーん、やっぱり優しいんだね、健二君って」
……
「陽子さんはどうしてここに?」
陽子は少しだけ俯いて赤色の傘をちょっとだけ回した。
「うん、実は私もこの猫ちゃんに会いに来たの」
陽子は手に持っていた袋の中からミルクのビンを取り出しそれを健二が用意したお皿の中にそっと入れた。
そして陽子はハンカチを取り出し白猫をふいてあげている。
車も何も通らない。ただ雨の音だけが聞こえる。
雨はしだいに勢いを増し激しい音を奏で始め
そして
消えた。
「健二君」
陽子の声がはっきりと俺に届く。
そこは白い世界。
僕が彼女に見た世界。
「私ね。今日ここでこの子に会えたら……健二君に会えたら……ううん、今日会えるのはわかてた、そんな予感がしてたの。だからここにきた、このままじゃいやだから」
白い世界は広がり無数の円弧を描く。
それは揺らぎざわめいている。
「好きです」
ざわめきは加速し僕に押し寄せた。
「ずっと前から……好きでした。」
白い世界は全てを取り込み僕の中に収束する。
彼女と白い猫だけを残して。
ため息をつく。
穂先を金色に輝かせた稲穂がその雨を受け輝きを鈍らせている。
にゃーー
白猫がどこからともなく足元にやってきた。雨に打たれていたのだろう毛がしっとりと湿っている。
「おっ、やっぱり居たんだな」
健二はしゃがみこみ白猫を撫でる。撫でられるのが嬉しいのだろうにゃーー、にゃーーと気持ちよさそうに声を上げる、
「ちょっと待ってろ今暖かいミルクあげるからな」
健二は袋から先ほど暖めてもらったミルクを取り出しカバンに入っている紙のお皿にミルクを注いだ。
白猫はそれをおいしそうになめ始めた。
「今日は、二人っきりだな」
健二はあの少女を思い出していた。
もしここで会えたら奇跡的だと思った。
もしそうであれば思いが通じるかもと思った。
しかし彼女は居なかった。そして彼女と共にいつも現れるこいつが居た。
それが何を意味するのか。
雨粒が傘を超え体の中まで降り注ぐ。
「健二君?」
突然背後で声がする。それは燐とした明るい声だ。
健二は後ろを振り向く。
降っていた雨が止み光が差し込んだ気がした。
しかし、それは幻であった。
そこには彼女ではなく別の女性が居た。
確か。
「陽子……さん?」
「びっくりした。まさか、健二君が居るなんて思わなかった」
陽子は雨の音を切り裂くほど元気がいい。
「ああ、俺も。……塾に行ってたの?」
健二はがっかりした気持ちを表にださないよう精一杯繕った。
「えっ! 今日塾あったっけ」
「いや、無いと思うけど」
「なんだぁ、驚かせないでよ。一瞬、肉団子に怒られるかと思っちゃった」
「肉団子? ああ秋山のことね」
「あっ、しまった。ついつい普段の呼び方がでちゃった。これはここだけの秘密にしといて」
子猫のような仕草で笑う。
それが一瞬あの少女の笑顔に見えた。
「ああ、どうせ俺も肉団子って呼んでるからお互い様だ」
心の動揺を押し殺し声を絞りだした。
雨は木の葉に落ち滑らかに滑り落ち歩道の水面を揺らす。
「それにしても……健二君こそ、なんでこんなところに居るの? 家、かなり遠いよね」
……。
「この猫が心配になってね」
白猫は健二の足元でミルクをおいしそうにすすっている。お腹がすいていたのだろうもうミルクはほとんどない。
「それでここまで来たの?」
「まあな」
「ふーん、やっぱり優しいんだね、健二君って」
……
「陽子さんはどうしてここに?」
陽子は少しだけ俯いて赤色の傘をちょっとだけ回した。
「うん、実は私もこの猫ちゃんに会いに来たの」
陽子は手に持っていた袋の中からミルクのビンを取り出しそれを健二が用意したお皿の中にそっと入れた。
そして陽子はハンカチを取り出し白猫をふいてあげている。
車も何も通らない。ただ雨の音だけが聞こえる。
雨はしだいに勢いを増し激しい音を奏で始め
そして
消えた。
「健二君」
陽子の声がはっきりと俺に届く。
そこは白い世界。
僕が彼女に見た世界。
「私ね。今日ここでこの子に会えたら……健二君に会えたら……ううん、今日会えるのはわかてた、そんな予感がしてたの。だからここにきた、このままじゃいやだから」
白い世界は広がり無数の円弧を描く。
それは揺らぎざわめいている。
「好きです」
ざわめきは加速し僕に押し寄せた。
「ずっと前から……好きでした。」
白い世界は全てを取り込み僕の中に収束する。
彼女と白い猫だけを残して。